ここでは、大学教員になる方法やその実態について分かりやすく教えます。
ちなみに、私は物理学担当の非常勤講師として某大学に勤めています。
「テレビとかで出て来て面白いこと言ってウケてる先生もいるし、大学教員っていいじゃん!」と思っている方も多いかと思いますが、実は大学の先生はいろいろと大変なのです。
大学の先生に興味を持っている方はぜひ参考にしてみてください。
大学教員のヒエラルキー(階層)
まずもって、大学の教員は『教授』と呼ばれると思っている人がほとんどだと思いますが、教授になるためには、普通は順を追って出世していきます。
めちゃくちゃ若いのに業績があって直接採用されるレアケースもありますが、基本的に若い大学教員は『准教授』になっている場合がほとんどで、教授会審査を通って『准教授』から『教授』になります。
その際、どれだけ論文を書いて、それまでその大学にどれだけの役割を担って来たかが判断材料になって審査されます。
いわゆる「大学の先生」と言われるのは、この『教授』『准教授』です。
実は、准教授のまえに『助教』というポストがあり、昔は「助手」と言われていました。
しかし、「助手」だと先生の手助けをする人だというイメージがあるので、今はそのような呼び方をしません。
同様に、「准教授」も昔は「助教授」という呼び方がされていましたが、それも今は使われていません。
『助教』はほとんどの場合で「任期」が5年などと決められていて、その条件を納得して就任するので、いわゆる「腰掛け」です。
助教は講義を任されることはほとんど無いのですが、研究室内の時間や手間のかかる研究を担当することが多いので、その点でも教授、准教授とは大きく異なります。
その間に論文数を増やすなどの業績をあげて、今の大学なり他の大学なりで准教授の募集があればそれに応募します。
そして審査を通過して「准教授」になったら、私たちがよく聞くいわゆる「大学に就職した」という状況になるのです。
そのほか、大学によっては「講師」と呼ばれるポストもありますが、これも多くが契約上は「任期付」です。
『非常勤講師』という言葉も聞くこともあるかも知れませんが、こちらはいわゆる「パート」くらいの位置づけです。
他に英語教室を自分で持っていたり、他大学や短期大学でれっきとしたとしたポストについていて、その大学に「教えるため」だけにやってくる先生です。
私の場会、専門学校でも教えていたり、漫画家としてのお仕事もしています。
大学教員の1日の流れ
教授・准教授は、基本的に「研究室」とよばれる居室を1人1つ持っており、そこへ出勤します。
実は、教授・准教授はほとんどの場合、基本的に裁量労働制対象者なので、いつどこで働いていようと大学はいちいち干渉しないのです。
ですから、タイムカードがあるわけでもなく、どこにいても基本かまいません。
ただ、少なくとも授業がある時には大学に行かないと講義に穴をあけることになるので、授業のある時間には必ず出勤します。
午前
普通のオフィスワークなら、朝出勤後、「まずメールチェックして、必要なら返信して…」という流れになるでしょうが、大学の先生たちはそれぞれが自由です。
授業が入っていれば授業を行いますが、それ以外は先生によります。
「授業がなければ午前中は研究に当てる!」と決め込み、ノックしても出て来ないという先生もいますし、「邪魔されるのがイヤだから」と午後から出勤する先生もいます。
午後
- ゼミ
- 教授会
- 学科会
- ○○部会
- ○○対策会議
など、午後は大学運営に関する会議がたくさん用意されているので、意外と忙しい時間を過ごします。
また、夕方は授業が終わる時間帯ですので、学生を呼び出して「レポートを全く出していない」「授業に出席していない」などお小言タイムとなります。
そして夜はまた研究タイム。
論文を書いたり、朝までデータをにらんでいるといった一日を過ごしています。
大学教員の1年間の流れ
春と秋には、多くの学会が催されます。
学会に出席するだけなら良いのですが、学会で発表するとなると1〜2ヶ月は共同研究者と密接に連絡を取りながら発表内容を議論することになります。
また、夏は研究会がたくさん行われますので出張が多くなります。
夏から秋にかけては大学院の入試があり、それが終わると本格的な大学入試の季節に突入します。
極秘会議の「入試問題作成会議」などが冬に行われ、2月の入試シーズンの準備をします。
そういえば、この入試関係のミスで、前年度にさかのぼって入学許可者を大量に出すという不祥事を起こした有名大学もありましたね。
1〜3月にはセンター試験や本試験の試験監督者会議、入学判定会議が有ります。
もちろんこの時期は通常授業の後期試験の時期と重なっており、学部生の成績をつけなくてはなりませんし、4年生は大事な大事な卒業判定会議なる会議もあります。
これを通らなかったらその学生は卒業できないわけですから、自分のゼミの学生がその中にいようものなら上へ下へのお騒ぎになります。
まず、本人を呼び出して事情を聞き「単位を出してくれそうな先生に泣きつきに行きなさい」とアドバイスし、先生によっては、
- 「この2単位だけ(出してくれたら卒業できるの)ですから!」
- 「どのような課題を提出させればいいでしょうか?」
と学生のために助け舟を出したりします。
ほかにも学生のケアがたくさんあります。
先生たちは「研究室」という研究テーマごとについて集めた学科の最小単位のグループを持っていて、そこに数人から数十人の学生が参加しています。
その学生たちが就職したいか大学院へ進学したいかを聞き取り、就職活動の進捗具合や大学院へ進学する時のアドバイスなどをしています。
就職活動や大学院進学の必要書類となっている「推薦書」を書くのは大切な仕事ですが、書類はゼミの卒業生分が必要なので大所帯のゼミだと大変です。
必要なら個人面談もしますし、呼び出しても連絡がつかなくて卒業もままならないという時は、親に連絡を取らねばならないこともあります。
逆に保護者が大学に「うちの子が授業に出てないようですが」「うちの子は卒業できるって言っていたのにウソだった」などと連絡してくるケースもあり、もちろんそれにも応対しています。
このように、大学教員は研究以外にもやることがとても多いのが現実です。
それでも大学の先生になりたいという方は、次の大学教員になる方法を読み進めてみてください。
大学の先生になるには
大学の先生になりたい方は、大学卒業後、大学院へ進学してください。
大学教員は、教育学部で教員免許を取ったからと言って成れる職業ではありません。
逆に、教員免許が無くても大学教員には成れます。
大学院は「修士課程(マスター)」と「博士課程(ドクター)」があり、大学によっては修士、博士と呼ばずに、前期博士課程(修士課程)後期博士課程(博士課程)という名前がついているところもありますが、どの大学も修士課程が2年、博士課程が3年あると考えてかまいません。
文系では少し前までは、修士課程を終えて博士課程に進学し、博士号をとる前にさっさとポストを見つけて大学の助教になるというケースがよく見られました。
博士号はどこかの大学に博士号取得申請をして、その大学の試験を受けて認定されました。
しかし、今は文系も理系も大学院修了後、そのまま指導教官が用意してくれる博士の試験を受け、博士号を取得して、大学の公募に出願する場合が多くなりました。
ただし、大学のポストは今や飽和状態です。
本来は退職した教官の分だけポストが空くはずですが、補充せず「任期付」の助教や講師のポストを増やして教授、准教授のポストはほとんど増やさない傾向にあります。
大学院で博士号を取得したら空き待ちをする間、「ポスドク」という先生でもない大学院生でもない身分に身を置く研究員が多くいます。
ポスドクが大学教員になるまでの流れ
①日本学術振興会という国の機関に申請して研究室付きになり、
②「給料」をもらいながら研究成果を挙げ、
③学会発表し、
④論文を書いて業績を積み、
⑤大学のポストが空けば、応募して審査を待つ
というのが、オーソドックスな就職パターンです。
大学教員へのバイパス
最近は大学のシステムも複雑になり、それに特化した部署を設ける必要が出て来ました。
たとえば東京大学では「東大地震研究所」など有名ですが、研究所と言われるものをたくさん持っているのが特徴です。
最近では、この研究所が多くなり、iPS、防災、文化人類学、芸術などたくさんの研究所があります。
そして、そこにも教授・准教授というポストが用意されるようになりました。
研究所なので、多くの場合、大学生を教育する義務が発生しません。
また、既存の大学内にも「生命遺伝学研究センター」「国際連携機構」「情報基盤センター」など学部横断的に共同研究する人材を集める研究所を持つ場合があり、そこにも教授・准教授というポストを置いています。
こちらは、いったん社会に出てその専門を極めた人を登用したり、大学院を出て大学で助教などに採用されなくて国立研究機関などで研究した人を採用したりするケースが多いので、こう言ったルートで「教授」になるということも目立つようになりました。
テレビなどでよく見る肩書きの「客員教授」も、大学に必要とされる人材と認められた人であり、大学院に準ずる研究または社会貢献をなした人です。
大学教員の魅力
大学教員の最大の魅力は、なんといっても自分の研究に没頭でき、研究費を支給され、研究環境を整えてもらえることです。研究室には、理系なら実験器具など、文系なら大量の資料などを整えることが出来ます。
本来の大学の役割は大学生を教えることだけではなく、研究する役割を担っています。
では大学生になぜ「教え授けて」いるのかというと、「共同研究者になりうる人材を育てる」ことにあります。
つまり、昔から大学は研究者の「弟子」を育てているのです。
そして、いつしか高等教育がみんなのものになり、今では大学は大量の学生を抱えて研究だけでなく教育もおこなう機関へと変貌を遂げたというわけです。
大学の研究の多くは、国の予算を使って行われています。
私立大学であっても研究費に補助金が投入されていますので、研究は社会に還元されることを期待されています。
即戦力になる研究もあるでしょうが、逆に、今後人類の役に立つ大発見につながる研究もあるでしょう。
ほとんどの大学の先生たちは、大学運営の事務仕事に謀殺されそうになりながら自分の研究テーマを極めているのです。
ただでさえ狭き門ですが、採用されても研究外の事務仕事に追われるのが大学教員です。
それでも良ければ、希少な「大学の先生」という職業にあなたもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。