理学部の魅力や就職先・大学院進学について、物理学担当の大学非常勤講師が詳しく解説します。
■「理学部って具体的に何を研究しているのか分からない」
■「理学部を卒業したらどんな就職先があるの?」
と疑問を抱えている受験生の方は、ぜひ参考にしてみてください。
きっと、理学部のスケールの大きさ・凄さが分かるはずです。
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理学部と工学部の違いとは
理学部とは、簡単に説明すると「原理を研究する学部」と表せます。
よく工学部と比較されることがありますが、理学部と工学部の違いを簡単に説明すると以下のようになります。
●「何にでも応用可能な原理を研究するのが理学部」
●「それを使って新しい何かを作り上げるのが工学部」
「ものづくり」には、以下のように2段階あるということですね。
①原理を研究する(理学部イメージ)
②原理を利用して実用化・既存技術を発展させる(工学部イメージ)
理学部は”基礎”を授業で大事にする
理学部で学ぶことは、4年生になっても最先端の科学ではなく、せいぜい20世紀初頭までです。
基本的に、どの大学の理学部でも1年生は18〜19世紀についての授業から始まります。
理学部は、本当に”基礎の基礎”から学ぶのです。
しかし、内容は高校までで学んだような簡単なのものではなく、微積を使って数学的に、また現代的な知見から理解し直すのです。
どうして、こんなに基礎の基礎から学ぶことをしているのでしょうか。
それは、先端科学を理解するための道具を揃えるためです。
理学分野では、基礎を固めていなければ、大学院進学・就職しても課題に出会った時にしっかり理解することができません。
理学部を専攻するのであれば、とにかく
ことを覚悟しておいてください。
ただ最近では、理学部の授業に「専門科目」を少し早めに盛り込む大学が増えてきました。
以前は、基礎ばかり勉強していて「いつになったら専門が学べるのか」としびれを切らした学生がたくさんいましたが、そんな不満は少しずつ解消してきているようです。
ですが、他の学部と比べても特に基礎を重視しているのは理学部の特徴です。
一方、工学部の授業では、就職して即戦力になる実習が多く組込まれています。
例えば、工学部の「機械工学科」は、半年で力学を学んだらその後はすぐに設計や実習に移ります。
『トルク』を勉強したら、モーターの設計、金属の剛性による耐久性の判断などなど、学ぶべき内容は多岐にわたります。
つまり、
のです。
ちなみに理学部では、物理学科でなくても、多くの大学が半年かけて「力学」を学んだあと、「電磁気学」や「力学演習」などを学びます。
■工学部:知識学習⇒実習
■理学部:知識学習⇒より詳しく学習
理学部の魅力は”発見する”こと
理学部がどうして古典や基礎を重視しているかというと、「発見」するために必要な考察力を培いたいからです。
ノーベル賞には「物理学賞」「化学賞」「医学生理学賞」はあっても、「工学賞」は無いんですよね。
基礎の基礎を学ぶ意味というのは、
であり、これは理学分野においてとても重要な知識なのです。
今では大学の若い先生方は読まれないかもしれませんが、以前は、理学部に入学したなら「ヘーゲルとマルクス・エンゲルスを読め!」と言われたものです。
彼らは「哲学」や「経済学」に関して多大な功績を残しているのですが、「どうして理学部に哲学・経済学の勉強が必要なの?」と思われる方も多いでしょう。
分かりやすく説明していきます。
ヘーゲル・マルクス・エンゲルスの3人は『発見学』としての科学に精通しており、”真理に近づく方法”を研究していました。
特に、ヘーゲルは弁証法という手法を定式化してことで有名です。
ある事実があったとします。
この事実を実験で検証する前に、法則に従って予想を立てます。
結果がその予想通りなら良いのですが、法則から逸脱した結果が出て来たとすると、それは「矛盾」を意味します。
この矛盾に対する実験のやり直しや法則の解釈の見直しを経て、実験が間違っていなければ、法則の方が間違っていたということです。
これが弁証法という発見学的な科学の方法です。
ヘーゲルは、哲学的基礎を構築し、弁証法を定式化しました。
マルクスは、「経済活動の法則の起源」を自然現象に求め、「資本論」を執筆しました。
エゲルスは、弁証法を自然科学に応用して「自然の弁証法」という有名な本を書いています。
これらは、歴史の中で先人たちに培われて来た真理に近づく方法です。
これを知ってか知らずか、コツコツ繰り返しているのが理学部なのです。
なので、理学部で学ぶことは”地味にすごい”のです。
どの大学でも、理学部は「真理の探究」に力を注いでいます。
理学部がカバーしている基礎科学は、新しい科学の一大パラダイムを産むからこそ、基礎を通してその発見に至るストーリーを学び直す必要があるのです。
いくら基礎を学習すると言っても、ただ高校で習ったことを「時間や教員の労力を割いて」学び直しているわけではありません。
最近、iPS細胞発見の基礎研究が大きく花開いているのをみなさんも良くご存じですよね。
山中伸弥 先生はノーベル生理学・医学賞も受賞しました。
そう考えるとロマンを感じませんか?
ノーベル賞とまでは行かなくても、どの研究者もオリジナリティを発揮して「お山の大将」を狙っています。
理学分野には、誰もまねできない自分だけの研究がたくさんあるのです。
理学部の主な学科
理学部の先生ってどんな感じなの?
大学は「就職するためのパスポート」をもらいに行くところではありません。
どこの大学も、少なからず「自前で研究者の弟子を育てる」という至上命題を持っています。
今でこそ、大学は教育機関として授業やサイエンスカフェなどの広報活動を行い、国民の「知の普及」に尽力しているようなスタンスを取っていますが、少し遡ると、
という先生が普通にいました。
学生は必死にすがって勉強して、ついて来た学生だけ面倒見るというスタイルで「教育」していたのです。
そして、そのスタイルが特にはびこっていたのが理学部です。
笑い話ですが、ある数学の先生はあまりにも話している内容がわからないので、「あの先生は2進数でしゃべってるんだ」と学生に辟易されていました。
もちろん、現在はこんな先生は”ほぼ”いません。
もし見かけたら、「化石」「天然記念物」と考えてもいいでしょう。
と考えていた方は、ぜひ安心して理学部に来てください。
理学部の卒業後の進路は?
他の主な理系学部である医学部、薬学部、農学部、工学部については、卒業後の将来のイメージをしやすいという方は多いと思います。
しかし、理系の中ではめずらしく、理学部は卒業後の将来をイメージしにくい学部です。
医者になるわけでも、薬剤師になるわけでもなく、建築家でもなく、「理学部を卒業したら何になれるのか」イメージが湧かない人がたくさんいます。
そして、ネット上でも「就職無理学部」と揶揄されることさえありますし、中学・高校の職業セミナーなどでも、理学部が取り上げられることはほとんどありません。
就職する理学部生は多いの?
と考えている方は多いと思います。
しかし、理学部の学生がみんな大学院に進学して研究者にはなるわけではありません。
割合は大学によって違うと思いますが、就職に回る学生も相当数います。
では具体的にどこに就職するかというと、いわゆる「メーカー」が多いです。
- 「IT産業」
- 「化学産業」
- 「製薬」
- 「環境アセスメント」
また、変わり種としては、
- 「証券会社」
- 「市場調査会社」
- 「弁理士」
などの就職先もあります。
それから、高校の先生になる学生も多いですね。
理学部では、「教育心理学」などの単位を余分に取得しなければなりませんが、高校教員の免許を取ることができます。
一方、理学部の中でも就職活動が大変な学科はあります。
「生物学科」は、専門を活かして就職するとなると「農学部・医学部・薬学部」の出身者と就職先が重なることが多く、苦戦を強いられることを覚悟する必要があります。
また「地学科」は、地盤調査などが必要なゼネコン、石油やレアメタルなど鉱物資源関連への就職がありますが、これもそんなに求人が多いとは言えませんので就活激戦区になりがちです。
理学部は大学院に進学する学生が多い
基本的に、大学院は研究者になるために行くべきところではあります。
しかし現在は、「箔をつける」ために大学院に行く学生も多くいます。
本来は、大学院生は一人前の研究者と同様に扱われ、先生から見れば研究のパートナーのハズなのですが、現在の大学院の理学部の多くはもっと勉強したい人のための教育機関のようになっています。
ですので、理学部では大学院への進学率は他学部に比べ高いと思われます。
学部卒だと、企業からすれば、研究所に配属になっても手取り足取り教えなくてはならないことがたくさんあります。
一方の大学院卒だと、
- 「研究記録の取り方」
- 「実験への取り組み方」
- 「機器の操作方法」
などを自立してできることが、企業側からも期待されています。
ただ、就職の時に「就職できなかったから大学院に進学したのか」と思われることも、もしかするとあるかもしれません。
何を得たくて大学院へ進学したかを必要に応じて説明できるよう、きちんと自己分析した上で進学を決めましょう。
最後に
理学部は基礎学問の研究者の卵を育てる学部です。
「バラ色の未来がある」とは、ここでは決して書けません。
しかし、理学部は「出る杭大歓迎」の学部です。
オリジナリティを発揮したいという気概のある受験生の皆さんには、ぜひチャレンジしてもらいたいと思います。